「先生の骨折」
私が、最初にアシスタントになった先生は、やはり個性的な人で、
いろいろなエピソードがあるんだけど、そのうちの一つを紹介しよう。
私が入ってから、一年半か二年くらいたった頃だったろうか。
先生は、「気功」の道場に通い始めた。
(道場と言っても、カルチャースクールみたいなものだと思うけど)
先生が言うには、その道場のおかげでタバコをやめられたとかで、
「気功はスゲエよ!」とのことだった。
ところがある日、仕事場に行くと、先生が右腕を骨折していた。
(いや、正確には電話で知らされたのかも知れない。忘れた。)
聞くと、道場で腕相撲大会があって、腕相撲をやったら折れたのだそうだ。
日頃、座ってばかりの漫画家は、カルシウムが不足していて、
骨がモロくなっていたのだ。
当然、仕事は休み。
先生は「スマン」と謝っている。
休んでいる間の給料は払わないつもりらしい。
ま、アシスタントなんてのはそんなもんだ。
僕らアシスタント3人は、別の漫画家さんの手伝いをするハメになった。
しばらくして先生の入院している病院にお見舞いに行くと、
先生は「スマン」と言って、3万円の入った封筒を
アシスタント3人にくれた。
「これっぽっちもらってもねえ・・・」
というのがみんなの意見だった。
今思えば3人で9万円、先生も苦しい中捻出したお金だったのだろう。
そんなこんなで、他のアシスタントをやりながら、
先生が治ったらまた戻ることになるのかなあ、などと考えていた矢先、
先生から電話をもらった。
「いやあ、まーた骨折っちゃたよー」
聞くと、退院の日、病院の前でタクシーに乗ろうとして、右腕に体重をかけた瞬間、
「ピシッ」といったらしい。
お医者さんに、こっぴどく叱られたそうだ。
最初の骨折から全治2ヶ月、先生はその間いっさい漫画は描けなかった。
先生が仕事を再開した時、戻ってきたアシスタントは私一人だった。
絶対に戻るもんかと思っていたのだが、なんとなくまたやる事になってしまった。
言いたいことは、ちゃんと言わないといけないなと思った。
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