ホームアシスタントの世界作品

漫画家アシスタントの世界

エピソード・1

「先生の骨折」

私が、最初にアシスタントになった先生は、やはり個性的な人で、
いろいろなエピソードがあるんだけど、そのうちの一つを紹介しよう。

私が入ってから、一年半か二年くらいたった頃だったろうか。
先生は、「気功」の道場に通い始めた。
(道場と言っても、カルチャースクールみたいなものだと思うけど)
先生が言うには、その道場のおかげでタバコをやめられたとかで、
「気功はスゲエよ!」とのことだった。

ところがある日、仕事場に行くと、先生が右腕を骨折していた。
(いや、正確には電話で知らされたのかも知れない。忘れた。)
聞くと、道場で腕相撲大会があって、腕相撲をやったら折れたのだそうだ。
日頃、座ってばかりの漫画家は、カルシウムが不足していて、
骨がモロくなっていたのだ。

当然、仕事は休み。
先生は「スマン」と謝っている。
休んでいる間の給料は払わないつもりらしい。
ま、アシスタントなんてのはそんなもんだ。
僕らアシスタント3人は、別の漫画家さんの手伝いをするハメになった。
しばらくして先生の入院している病院にお見舞いに行くと、
先生は「スマン」と言って、3万円の入った封筒を
アシスタント3人にくれた。
「これっぽっちもらってもねえ・・・」
というのがみんなの意見だった。
今思えば3人で9万円、先生も苦しい中捻出したお金だったのだろう。

そんなこんなで、他のアシスタントをやりながら、
先生が治ったらまた戻ることになるのかなあ、などと考えていた矢先、
先生から電話をもらった。
「いやあ、まーた骨折っちゃたよー」
聞くと、退院の日、病院の前でタクシーに乗ろうとして、右腕に体重をかけた瞬間、
「ピシッ」といったらしい。
お医者さんに、こっぴどく叱られたそうだ。
最初の骨折から全治2ヶ月、先生はその間いっさい漫画は描けなかった。

先生が仕事を再開した時、戻ってきたアシスタントは私一人だった。
絶対に戻るもんかと思っていたのだが、なんとなくまたやる事になってしまった。
言いたいことは、ちゃんと言わないといけないなと思った。


TOP

エピソード・2

「一枚たりない!」

これは、私が某有名漫画家A先生のアシスタントをしていた時の話だ。
A先生は、週刊ヤングマガジンで「お天気お姉さん」を連載していた。
いつものように3日ほど泊り込んで4人のアシスタントが働いていた。
最終日。
いつものようにギリギリなので、編集の人がそわそわしながら
原稿の完成を待っている。
もう完成まじかだという頃、原稿の枚数を数えていた編集さんが言った。
「あれ、1枚たりませんよ」
A先生と4人のアシスタントの顔色が変わる。
すぐに手元にある原稿をチェックする。
机の間に落っこちてるんじゃないか。
スクリーントーンの間にはさまっていないか。
必死の作業が続いた。

ない・・・。
「一体、何ページがないんだ!」
という事になった。みんなでページ右上にふってある数字を確認する。
20ページのうち、1ページから19ページまである。
1ページ目は表紙になってるし、19ページ目の最後はラストコマになっている。
「・・・・どういう事だ?」
しばし沈黙が続いた。


つまりはこういう事だった。
A先生は、最初から19枚分のネームしか切ってなかったのである。
最初から19枚分の漫画だったのだ。
みんなの緊張の糸が切れた。
「それならもうどうしようもない、1ページ分、A先生の単行本の広告でも入れよう」
という事で一件落着したのであった。


TOP

エピソード・3

「マリさん」

私が、最初にアシスタントとして入った仕事場には一人の先輩がいた。
彼の名はKくん。私より年下だが1ヶ月ほど経験が長かったようだ。
まじめな性格らしく、一生懸命アシスタントに取り組んでいた。

仕事場には一匹の猫がいて、先生はとても可愛がっていた。
名前を「マリ」といった。

ある日Kくんは、買い物に行く時先生にこう聞いていた。
「マリさんのご飯は買ってこなくていいんですか?」
アシスタントたるもの、先生の飼い猫にまで「さん」付けをしなくては
ならないのか・・・と私は驚いたものだ。

もちろん、いくら先生の飼い猫だからといって「さん」付けをするのは
やりすぎである。
Kくんの生真面目な性格があらわれたエピソードであった。


TOP

エピソード・4(ちゅうか思い出)

「最初の面接」

僕が初めてアシスタントになるために漫画家の先生と
面接した時のことだ。
「フロムA」でアシスタント募集の記事を見つけた僕は
さっそく漫画家の先生に電話して面接する事になった。
指定された場所、それは青梅街道沿いのロイヤルホストだった。
その日は、僕の他に面接を受ける人は二人ほどいて
順番がくるまでカウンター席でコーヒーを飲んで待つように言われた。
面接会場は、ロイヤルホストの奥の方のボックス席である。
ひとりが面接を終えると
カウンターまで来て「次の人どうぞ」と伝えるシステムだった。

しかし考えてみると、すごいなと思う。
貸し切りでもないのにロイヤルホスト全体を使って
面接をする先生・・・・恐るべしである。
TOP

エピソード・5

「こ、これは・・・!」

それは、私が某有名漫画家A氏のアシスタントをしていた時のこと。

あるアシスタントが街並みの背景を描くために
A先生が吉祥寺で撮ってきた資料写真をめくっていた。
彼は突然
「ええ!?」
と大声を上げた。
なにごとかと思って彼のもとにかけ寄るスタッフたち。
なんと彼が手にした写真には、信号待ちをする彼自身が写っていたのであった。
その写真は確か5ほど前に撮ったものだった。

つまり、A先生が無作為に撮った街の写真に写った人間が、
数年たってアシスタントとして働くことになったのである。
その確率は、いったいどのくらいだろうか・・・。
かなり低いハズである。


「漫画アシスタントの世界」に戻る

TOP

HOME 掲示板アシの世界連載の記録プロフィール作品リストコラムリンク集
奮闘の記録メール




掲載しているすべての写真・漫画・イラスト等の無断複写・転載を禁じます。
Copyright (C) 2000-2002 Hikaru Nagareboshi All Rights Reserved.